マリコは焦っていた。
一日中剣の型をしていたが、“無心”と言われても理解できなかった。
このままでは・・・
焦りすぎるのも考え物だぞ、マリコ。
マリコが夜中一人考えているところに、ダルメラが声をかけた。
でも、こうしているうちに世界中の人たちは・・・!
・・・そうだな。
だがな、それでも焦るな。
人々を真に救いたいのであれば、万全の状態でなければ意味がないのだ。
しかし、私には“無心”といわれても何がなんだか分からないのです・・・。
どうしても・・・。
プライドが邪魔をするか?
!!
余もそうだったからな。
皇太子であるという自負。
皆の賛美の声。
ダルメラはマリコではなく外の暗闇を見つめながら言った。
その中、剣の指南役であった老師だけは違かった・・・。
余を決して褒めなかった。
それどころか、叱咤ばかりだった。
周囲の者は皇太子になんという態度をと怒り捕縛しようとしたが、余が止めた。
プライドゆえな。
この老師に絶対に余を認めさせてやると。
まあ、止めたのは正解だったが、止めた理由は褒められたものではなかったな・・・。
マリコは驚いた。
この皇王に、その様な時期があったとことに。
そして、最後には認めてもらったのですね・・・。
皇王の立派な姿を見れば分かる。
いいや。
え!?
認めてもらう前に逝ってしまわれた。
高齢であったからな。
最後の言葉は、殿下は立場に拘りすぎている、だった。
・・・。
マリコもそうだった。
勇者であることに異常なまでに拘っていた。
老師が何ゆえ、自分を認めなかったか・・・必死で考えた。
そして、老師の最後の言葉を繰り返し心の内で考えた、何故あの言葉を残したのかと。
考え続けた、皇王になってからも。
!
皇王になってから・・・も?
情けないことに、な。
そして、ある時気がついた。
余は人間ではなかった、ということに。
それはどういう・・・。
人間ではないとはどういうことなのか。
余は皇太子、そして皇王というだけの装置であって人間という存在ではなかったのだ。
老師は、おそらく、それを言いたかったのであろう。
人間になれと。
装置・・・。
そうだ、マリコも自分は勇者と言う装置だった。
自分の祈りで戦っていることを忘れ、気がつけば勇者という装置へと成り下がっていた。
勇者ではなく、勇者という装置だった。
人間でない者に人間の心は分からぬ。
ダルメラは苦笑した。
実は、それに気がついたのは最近だったからだ。
リスキンとのやり取りで気がついた。
偉そうなことを言ったが、ダルメラはリスキンの心のありように揺さぶられた。
一人の人間として全てを背負っている、その姿に・・・。
私は・・・私は・・・。
マリコには、ダルメラに返す言葉が見当たらなかった。
自分は果たして人の心を理解しているのか、と。
そなたは誇り高い素晴らしい娘だ。
そなたほど勇者という言葉が当てはまる者はおらぬだろう。
だが、そこに拘りすぎるな。
そうだ、一度は捨てた勇者という立場を、マリコはまたも拘り始めていた。
己は勇者である前に一人の弱い人間であるということを理解するのだ。
・・・。
おせっかいが過ぎたな・・・。
では、な・・・・・・。
そう言うと、ダルメラは夜の闇に消えていった。
マリコはその背中を黙って見つめていた。
続く