メイラ皇国編(6)

700年前の出来事について話したいと、ダルメラはマリコ達を己の執務室に呼んだ。
やっと書物を全て目を通すことが出来た。
話すときが来たとダルメラは決意した。

 

ダルメラは、あえて、自分の執務室を選んだ。
外にはララとリビルを置いて、他に誰も通さないようにいった。

その場にいるのはダルメラと、エルダ、マリコ、シルビ、ガラドゥ、リスキン、ミランヌだけだった。

 

ダルメラは自分の机の椅子に座っていた。
そして、人を射る様な眼で語り始めた。

 

 


・・・。
皆も知っての通り、魔王は「平和な世界」に突如として現れた。

 

 

ダルメラの眼はさらに鋭くなっていった。

 

 


当初は世界中の国々が、当時の化学力を結晶した兵器を持ってして倒そうとした。
そして、皆、そのような存在は近代兵器の前には無力であると思ったのだ。
だが、まるで効かなかった。
どんな手段を使っても倒れなかった魔王は・・・大魔王とまで呼ばれた。
どれだけ経った頃か・・・当時の者達はただ逃げ惑い、ひたすら救いを請うだけになった。
戦うということを放棄したのだ。
考えることを・・・やめた。

 


!?
何故ですか?
何故、知恵を絞らなかったのですか、当時の人々は!

 


知恵は絞っただろう。
だが、何も通じなかった。
それゆえ、それ以上、考える余裕がなくなった。
恐怖心が己の心を支配し続けたのだからな。

 


 


大魔王が現れるまで平和を謳歌していた世界は、今の混乱とは比べ物にならないほど、より混乱を極めた・・・。
唐突なまでの脅威の出現。
当時の近代兵器をもってしても意味を成さなかった存在が現れた。
それがいかほどの恐怖と混乱を招いたか想像を絶するものであろうな・・・。

 

 

その言葉に、その場全員が沈黙した。

 

 


絶対悪の具現とまで言われた・・・大魔王。
何ゆえ人界に現れたかまでは分からぬ。
だが、一つわかるのは・・・奴はこの世界を滅ぼする為に現れたのだ・・・。
世界を滅ぼそうとした理由はわからぬが、手段の一つとして我がメイラの忌むべき地下都市という存在を利用した。

 


・・・。

 


調べているうちに余は思ったのだ。
大魔王は絶対悪というより・・・人々の悪という概念を具現化した存在なのだと。

 


悪という概念の具現・・・。
それは一体・・・。

 


人の悪行を突き詰めた存在、それが大魔王。
大魔王の思惑は知らん。
ただ、人々にとって、その存在は悪であり、“悪でならなければならない”存在だった。
だからこそ、人々の悪の概念となりうるのだ。

 

 

ダルメラはそういって、手元にある古い書物を見つめた。

 

 


・・・。

 


我がメイラは、まさしく悪魔の所業をなしていた。
それゆえに世界最高の化学力を持ちえた。
世界最高の化学力を持っていたとしても手段が悪ならば、それは悪だ。
その悪の力を使うこともまた悪。
当時のメイラの国民は地下都市で行われた実験の力で世界最高の生活水準を満たしていた。
すなわちそれは悪。
何も知らなくとも、だ。

 


何も知らなくとも、悪・・・か。

 

 

リスキンは何処か皮肉をこめて言った。
リスキンは地下都市で地獄を背負わされた。
外の世界で生きていけず、残ったのは地下都市という地獄のみだった。
その地獄の外で、メイラの国民は何も知らず裕福に暮らしていた。
それを、己はどれほどそれを呪ったことか。

 

 


魔王はそのメイラ所業を利用した。
悪の行為をそのまま利用したのだ。

 

 

ダルメラは、とんとんっと、手元にある資料の一つをたたいた。

 

 


世界が滅びたのは・・・近代兵器の使いすぎたのも背景にある。
世界中の国々が強力すぎる武器を大魔王が現れるところあちこちにぶちまけたのだ。
その場にいる人々ごと・・・。
大魔王を倒すために仕方がなかった犠牲・・・と言い訳して。
なればこそ、大魔王こそが”悪ではなくてはならない存在”・・・悪を突き詰めた存在でなければならなかった。
・・・・・・・・・・・・。
手段は目的を正当化してはくれないのに、な。

 

 

ダルメラは軽く眼を瞑った。

 

マリコは思い出した。
地下都市で眷属ヘルガが言った言葉を。

 

“自らの手にあまる行為をし続け、自ら滅びの道をたどっていっていたのよ”

 

そういうことか。
手に余る行為をし続けたのだ、当時の世界は。
悪の所業によって富を得たメイラ。
その悪をそのまま利用された。
世界中が、大魔王が現れるところに自らの強力な兵器をその場にいた人々ごと吹き飛ばし続け、自らの世界を壊し続けた。
恐怖のあまり・・・。
そして、それすらも大魔王には通じなかったことに絶望した。

 

 


最終的には、南の大陸、サヴァナ大陸の亡国ウィナ王国の王子である勇者ミエラ、獣人ダルゥイ、このメイラ皇国の狩人サリ、エルフ最高の魔法の使い手イリヴィ、この四人が中心となり・・・いやこの四人のみが大魔王に立ち向かった・・・・・・。

 


4人のみって・・・。

 


勇者ミエラ達がどうやって大魔王を封印したのかまでは分からなかった。
ただ、諦めが支配した世界でも最後まで諦めなかった者達がいた、それは希望であり、救いとなったことは確かだ。
たとえ文明が滅びようと、人間は滅びなかったのだからな・・・。

 

 

そう言うと、ダルメラはある剣を取り出した。
装飾こそ少ないが、それが相当なものであることは一目で全員が感じた。
身にまとっていた、清浄なる何かが。

 

 


マリコ・・・そなたにこの剣を授けよう。
メイラ秘蔵の宝剣。
700年前、勇者ミエラが使ったとされる剣だ。

 


何故そんな物がメイラに・・・?

 


奪ったのだ。
メイラがどんな国か、知っておろう?
人類の滅びを一歩手前で救った勇者から、奪ったのだ。
功績をも封じて・・・。

 


!?
何故そんなことを!

 


己達のしたこと・・・世界を救うという名目で当時の上の者達がしたことをなかったことにしたかった。
なればこそ、魔王との戦いで疲弊していた勇者たちを亡きものにした。

 


!!!

 


彼らの功績を伝説とだけさせて、当時の出来事を記録したものを燃やし尽くした。
残った国々にも働きかけてな。
だが、全てを燃やせたわけではなかった・・・。
一部の者達がこっそり、メイラの、世界の罪を記録を残しておいたのだよ。
この剣も、処分せよという命をメイラの混乱に乗じて、当時、良心の残った者達が秘密裏に隠したのだ。

 

 

ダルメラは自嘲するように笑った。

 

 


皮肉な話だ・・・。
余は世界最古であり世界の滅びを乗り越えた国として、メイラ皇国の皇王であることを誇りに思っておったのにな。
実際のメイラは、誇れるような国ではなかった・・・。

 

 

ダルメラはそう言い、剣をマリコに手渡した。

 

 


これは、メイラの良心の欠片。
そして、勇者ミエラが魔王から世界を救った証。
マリコ・・・貰ってはくれまいか。
これは、そなたが持つことに意味がある。

 

 

マリコは頷きながら、剣を受け取った。
重かった、この剣の意味するものが、あまりにも重かった。

 

 

続く

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